hibi


ひんやりとはじまるものを春と呼ぶ

鳥は目を瞑って空を閉じました

無言でもいい人といる埋立地


『hibi』は本当に、どのページを開いても、ため息がでてしまうような川柳に満ちていて…ただ、読んでください。という事に尽きるのですが、それでは紹介の記事にならないので、無粋ながら感想を述べていきたいと思います。

hibi と言うと、日々、や、割れのヒビ、などがありますが、単語のセレクト自体は極めて日常的です。文学的な単語よりは、口語、普段の言葉で語られている様に思います。


握りたくなる新品の鉄パイプ

さみしいのかわりにセロファンとつぶやく

でたらめな呪文でひらく十二月


575に言葉をはめられていると、どうしても、多くの意味を含んでしまったり、重みのある気配をまとったり、知っている句のイメージと繋がってしまう事が多いのだけれど、八上さんの句はどこをとっても軽やかで、疲れさせない。意味や背景ではなく言葉そのもの、描かれた情景そのものに魅力が集約されている気がします。

鉄パイプは鉄パイプ以上でも以下でもないと思うし、呟いた言葉も、何かの例えでも、仕掛けでもなくて、言葉が言葉として放たれたように感じます。文学のチャンネルを通さずとも、その言葉の意味や美しさがそのまま心に、入ってきてくれて、普段の言葉と浸透圧が全く変わらないのでは。生理食塩水よりも、身体に親しい水を注がれている気になります。


こうすれば銀の楽器になる蛇口

おひとりさまですかと闇に通される


そこで結ばれる像はいつも明るくて、風通しがよくて、それでも、深い奥行きがある。すごく何気なく紡がれたようでいて、ここまで徹底して透明な言葉というのは、本当に1つ1つ慎重にノイズや避けたいものを取り除きながら、踏みしめながら、積み重ねられた言葉なのだと思います。


ただ痛いだけの痛みでしょう 波は

えんぴつを離す 舟がきましたね

呼べばしばらく水に浮かんでいる名前


定型がある、という事は定型は座りがよくて、字余りや字足らずは少し不安な印象や、型破りな印象を与えたりすると思うのですが、この句集ではそれすらもすごく穏やかで、余白にも豊かで密度のある時間が流れている事に驚きます。えんぴつを離す の後の空白に、舟がたどり着くまでの少しの沈黙と、舟のゆったりとした速度や湿度まで伝わってくるようです。
ヒヤシンスじゃあどうすればよかったの
おとうとはとうとう夜の大きさに
濡れている石に痛みのあるように
争いのような一コマ、不思議なように見える描写もあるけれど、やはり同じ温度の静けさと、繊細さと、同質の時間が流れて、密度で満たされている。発見、視点、意志など、作為的な世界を越えた大きな世界の中に漂うような。いつまでも、読んでいたくなるような一冊です。(よ)


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