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初谷むい『花は泡、そこにいたって会いたいよ』
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--- 新鋭短歌シリーズ37 『花は泡、そこにいたって会いたいよ』 初谷むい 監修:山田航 2018年4月発行 あまりにも素晴らしくって、生涯手元においておくと誓った。 (下川リヲ 挫・人間) いつかは忘れてしまうような一瞬一瞬を、全部思い出してしまう。 (山田航) 【5首】 イルカがとぶイルカがおちる何も言ってないのにきみが「ん?」と振り向く カーテンがふくらむ二次性徴みたい あ 願えば春は永遠なのか どこででも生きてはゆける地域のゴミ袋を買えば愛してるスペシャル エスカレーター、えすかと略しどこまでも えすか、あなたの夜を思うよ ふるえれば夜の裂けめのような月 あなたが特別にしたんだぜんぶ 【著者プロフィール】 初谷むい(はつたに・むい) 1996年生まれ、北海道在住。北海道大学短歌会、短歌同人誌「ぬばたま」所属。 Twitter : @h_amui 発行所:書肆侃侃房
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天道なお『NR』
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--- 新鋭短歌シリーズ5 『NR』 天道なお 監修:加藤治郎 2013年8月発行 香り高い歌が拡がる。 天使の都から日本のオフィスまで、 現代の言葉が世界を駆け抜ける。 ー加藤治郎 【5首】 こいびとは遠き日曜 電磁波の時雨に濡れてきみはいまごろ 勝ち負けは淡くあのこはもういないそろり足首ひたす泥濘 山間部および都市部はおよそ雨、NR(ノーリターン)とあるホワイトボード たった今排出されたファックスの微熱ばかりがいとしい夜だ 激しくも西日射し込むこの部屋で全世界色見本帳繰る 【著者プロフィール】 天道なお(てんどう・なお) 高校時代より作歌を始める。大学在学中に早稲田短歌会に入会2000年 短歌研究創刊800号記念臨時増刊「うたう」作品賞候補作2001年 波濤第二回大西民子奨励賞2002年 マルチメディア動画配信『テノヒラタンカ』に参加2003年~ 未来短歌会 彗星集所属 発行所:書肆侃侃房
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笹井宏之『八月のフルート奏者』
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SOLD OUT
--- 新鋭短歌シリーズ4 『八月のフルート奏者』 笹井宏之 監修:加藤治郎 東 直子 2013年8月発行 「佐賀新聞」に託した愛する世界 この世と、この世ならざる者との間で生じる思索を、言葉の音楽に変えていった青年の本心が、どの歌にもじっくりと座っている。 ー東 直子 佐賀新聞読者文芸欄2004年10月~2009年2月掲載の全歌と新たに発見された歌を含む395首を収録 【5首】 葉桜を愛でゆく母がほんのりと少女を生きるひとときがある 八月のフルート奏者きらきらと独り真昼の野を歩みをり 雨といふごくやはらかき弾丸がわが心象を貫きにけり ひろゆき、と平仮名めきて呼ぶときの祖母の瞳のいつくしき黒 木の間より漏れくる光 祖父はさう、このやうに笑ふひとであつた 【著者プロフィール】 笹井宏之(ささい・ひろゆき) 1982年佐賀県生まれ。2004年に短歌を作りはじめる。 2005年、連作「数えてゆけば会えます」で第4回歌葉新人賞を受賞。2009年1月24日、26歳で永眠。 歌集に『ひとさらい』『てんとろり』『八月のフルート奏者』(すべて書肆侃侃房)、作品集に『えーえんとくちから』(ちくま文庫)がある。2019年の没後10年にあたり、笹井宏之賞が創設された。 発行所:書肆侃侃房
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堀合昇平『提案前夜』
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--- 新鋭短歌シリーズ3 『提案前夜』 堀合昇平 監修:加藤治郎 2013年5月発行 前夜を生きる。 廃墟と化した現代短歌に、この青年は 何を提案しようとしているのだろう。 加藤治郎(解説より) 【5首】 全身が痺れるような提案のキラーフレーズ浮かばぬ夜は 配管のうねりを闇にみるばかりみな吊革に腕を垂らして たましいのごとき一枚ひきぬけば穴暗くありティッシュの箱に ひとりぶんの灯りの下でキーに打つ変更後機器明細三〇〇〇行 追い越してゆく追い越してゆくタクシーは真夜の光を追い越してゆく 【著者プロフィール】 堀合昇平(ほりあい・しょうへい) 1975年 神奈川県に生まれる2001年 駒澤大学大学院修了(専攻社会学)2008年 未来短歌会入会、加藤治郎に師事2011年 未来賞受賞コンピューターメーカーにて営業職に従事。名古屋市在住。 発行所:書肆侃侃房
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鯨井可菜子『タンジブル』
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--- 新鋭短歌シリーズ2 『タンジブル』 鯨井可菜子 監修:東 直子 2013年5月発行 生物であることの実感 嫌なことや悲しいことによって一度しゃがんでも、ずっと闇の中にい続けたりはしない。九州、福岡の明るい光の中で育ったことが影響しているのかもしれない。 東 直子(解説より) 【5首】 さよならって言おうとしたら足許にきれいな刺繡糸があったの 阿佐ヶ谷の画家の家にて昼下がりファム・ファタールが茹でるそうめん しのぶれど色に出でにけるわたくしと飲む焼酎はおいしいですか 風光る夏の画塾よ弟がスケッチブックを見せてくれない わたしには無理なんですと雨上がりにぐっしょり濡れた日傘ひらいて 【著者プロフィール】 鯨井可菜子(くじらい・かなこ) 1984年4月生まれ。福岡県立筑紫丘高校、九州大学芸術工学部卒。デザイン会社勤務を経て、現在フリーランスの編集者・ライター。「かばん」「星座」に所属。 発行所:書肆侃侃房
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木下龍也『つむじ風、ここにあります』
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--- 新鋭短歌シリーズ1 『つむじ風、ここにあります』 木下龍也 監修:東 直子 2013年5月発行 痛みと風穴が愛おしい 心に向かって254回も引き金をひかれ、逃げられました。 (道尾秀介) 圧倒的な言語感覚 類いまれな想像力と繊細な洞察力で刻む、斬新な世界。 (東 直子) 【5首】 夕暮れのゼブラゾーンをビートルズみたいに歩くたったひとりで ハンカチを落としましたよああこれは僕が鬼だということですか 自販機のひかりまみれのカゲロウが喉の渇きを癒せずにいる 鮭の死を米で包んでまたさらに海苔で包んだあれが食べたい カードキー忘れて水を買いに出て僕は世界に閉じ込められる 【著者プロフィール】 木下龍也(きのした・たつや) 1988年1月12日、山口県生まれ。山口県在住。2011年より作歌を始め、穂村弘「短歌ください」(ダ・ヴィンチ)や短歌×写真のフリーペーパー「うたらば」などに投稿を始める。2012年第41回全国短歌大会大会賞受賞。結成当日解散型不定形ユニット「何らかの歌詠みたち」で岡野大嗣らとともに短歌朗読をたまにしている。しいたけと生魚と自己紹介が苦手。 Twitter:@kino112 発行所:書肆侃侃房
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水野葵以『ショート・ショート・ヘアー』
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短歌研究新人賞、笹井宏之賞の候補、ネットプリントやZINEなどでも活躍する、水野葵似さんの歌集『ショート・ショート・ヘアー』。 旅客機の窓はきらめくそれぞれのパーパス・オブ・ユア・ヴィジットをのせ 君の背にロールシャッハが咲いていてそれでも好きと思えたら夏 カタカナに軽みがあり、ウィットに富んだ明るい気分が広がります。 さっきのをプレイリストにしたよって夜道よ今夜だけ長くあれ いいパパになるねだなんて余り物炒めただけで言っちゃいやだよ 散りばめられた喩えやユーモアにも余裕があって、前向きで、笑わせてくれるような。優しさや愛を感じます。 −−− 新鋭短歌シリーズ58 『ショート・ショート・ヘアー』 水野葵以 監修:東 直子 【5首】 旅客機の窓はきらめくそれぞれのパーパス・オブ・ユア・ヴィジットをのせ 君の背にロールシャッハが咲いていてそれでも好きと思えたら夏 スーパーで出くわすような気まずさと夜の校舎のような嬉しさ 日々のバカ 開きっぱなしの踏切でほとぼりが過ぎ去るのを待って サササドリと母が呼んでる鳥がいてたぶんこれだな、サササと走る 生まれたての感情を奏でる かけがえのない瞬間を軽やかに閉じ込めた歌の数々。 日常と非日常と切なさと幸福が、渾然一体となって輝く。 (東 直子) 【著者プロフィール】 水野葵以(みずの・あおい) 1993年4月30日、東京都生まれ。2018年より作歌を始める。 「タクトをふるう」で第62回短歌研究新人賞候補作、「三人家族」で第3回笹井宏之賞最終選考候補作。短歌ネットプリント「ウゾームゾーム」を不定期配信中。著作に、短歌と写真のZINE「あいもかわらず」。 Twitter / Instagram:@TomAoi_24 発行所:書肆侃侃房
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toron*『イマジナシオン』
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toron*さん『イマジナシオン』 おふたり様ですかとピースで告げられてピースで返す、世界が好きだ はやぶさの次はひかりに乗り換えてきみがまばゆく南下して来る 進まなくていい青としてローソンはぼくらのセーブポイントだった イマジナシオンは、フランス語で「想像」。巧みな比喩や言葉遣いは何かを詳しく伝える、というよりは、視野が一気に広げたり、気持ちを溢れるほど拡張する。 花びらがひとつ車内に落ちていて誰を乗せたの始発のメトロ ドで始まりドで終わるように観覧車降りてもきみがまだ好きだった 春一番ピアスホールに吹き抜けてあなたなしでも春なのだろう。 短歌が切り取るのは、誰にも起こりうる1場面かも知れないけれど、次々に表れるイメージが、前後のドラマや、たくさんの感情をぐんぐんと想起させる。想像や回想はどうしても、読み手自身のものになってしまうので、何度も何度も、心を震わされてしまう歌集だと思います。 「短歌が魔法だったことを思い出してしまう。」(山田航)ー帯より −−− 新鋭短歌シリーズ60 『イマジナシオン』 toron* 監修:山田航 【5首】 いずれ夜に還る予約のようである生まれついての痣すみれ色 花びらがひとつ車内に落ちていて誰を乗せたの始発のメトロ 手のひらの川をなぞれば思い出すきみと溺れたのはこのあたり おふたり様ですかとピースで告げられてピースで返す、世界が好きだ 海の日の一万年後は海の日と未来を信じ続けるiPhone 言葉で世界が変形する。 不思議な日常なのか、リアルな非日常なのか、 穏やかな刺激がどこまでも続いてゆく。 短歌が魔法だったことを思い出してしまう。 (山田航) 【著者プロフィール】 toron*(とろん) 大阪府豊中市出身。現在は大阪市在住。Twitterで短歌に出会い、2018年4月からウェブサイト「うたの日」に投稿をはじめる。新聞歌壇、雑誌などへの投稿をしつつ、現在は塔短歌会、短歌ユニットたんたん拍子、Orion所属。 発行所:書肆侃侃房
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上坂あゆ美『老人ホームで死ぬほどモテたい』
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上坂あゆみさん『老人ホームで死ぬほどモテたい』 お父さんお元気ですかフィリピンの女の乳首は何色ですか 生きる犬は死んだライオンに勝つらしい わたし長生きのライオンになる 桜舞う森でピースで立ったまま散るな笑うな最終回かよ 一見シニカルで、ジョークみたいな語り口だけれど、実は深刻な出来事、追い詰められた心境である事も多い事に気が付きます。 吐瀉物にまみれた道を歩いてく おおきなおおきな犬の心で 今ここが世界の中心かのように泣く人がいて会議が止まる ギリギリの状況でも、突飛な方法で茶化してしまうのは、上坂さんの明るさの才能なのかも知れないし、悲劇のヒロインになる事も許されないほど、世界が窮屈になっているのかも知れない。とも思う。 老人ホームに「死ぬ」という単語を付けてしまう笑えなさも、それまでを諦めてしまう諦念も、それをコミカルにしてしまう度量も含めて、しぶとく生きること、強さ、逞しさを貰える歌集…。(よ) −−− 新鋭短歌シリーズ59 『老人ホームで死ぬほどモテたい』 上坂あゆ美 監修:東 直子 【5首】 母は鳥 姉には獅子と羽根がありわたしは刺青(タトゥー)がないという刺青(タトゥー) 風呂の水が凍らなくなり猫が啼き東京行きの切符を買った 故郷の母と重なりしメスライオン 深夜のナショナル・ジオグラフィック 沼津という街でxの値を求めていた頃会っていればな シロナガスクジラのお腹でわたしたち溶けるのを待つみたいに始発 思わぬ場所から矢が飛んでくる 自分の魂を守りながら生きていくための短歌は、パンチ力抜群。絶望を嚙みしめたあとの諦念とおおらかさが同居している。 (東 直子) 【著者プロフィール】 上坂あゆ美(うえさか・あゆみ) 1991年8月2日、静岡県生まれ。東京都在住。 2017年から短歌をつくり始める。 銭湯、漫画、ファミレスが好きです。 Twitter:@aymusk 発行所:書肆侃侃房
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岡野大嗣『サイレンと犀』
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木下龍也さんとの共著や、イベントスペース「spin off」を運営するなど、八面六臂の活動をされる歌人・岡野大嗣さんの人気歌集。 安福望さんのイラストも素敵です。 <自選短歌五首> もういやだ死にたい そしてほとぼりが冷めたあたりで生き返りたい ともだちはみんな雑巾ぼくだけが父の肌着で窓を拭いてる 河川敷が朝にまみれてその朝が電車の中の僕にまで来る そうだとは知らずに乗った地下鉄が外へ出てゆく瞬間がすき つよすぎる西日を浴びてポケットというポケットに鍵を探す手 【ブログ紹介記事はこちら】 →http://wp.me/p9kdgT-1s
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木下侑介『君が走っていったんだろう』
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--- 新鋭短歌シリーズ55 『君が走っていったんだろう』 木下侑介 監修:千葉 聡 1000年たっても青春である 視界が開ける。いつもの世界が新しくなる。 若い世代の生きづらさに寄り添う歌。 (千葉聡) 【5首】 目を閉じた人から順に夏になる光の中で君に出会った 海だってあなたが言えばそうだろう涙と言えばそうなんだろう 雨に会うそのためだけに作られた傘を広げて君を待ってる 花にルビをふるように降る雨、雨の名前は誰にも分からないけど 「幸せに暮らしましたが死にました。けれど死ぬまで幸せでした」 【著者プロフィール】 木下侑介(きのした・ゆうすけ) 1985 年、横浜生まれ。 穂村弘氏の「短歌という爆弾」を読んでから作歌を始め、「短歌ください」(穂村弘氏選)、「東京歌壇」「短歌の時間」(東直子氏選)にて入選を重ねる。枡野浩一氏の「かんたん短歌blog」にて、エッセイ「アイハブノークエスチョン」採用。「いつまでもその初々しさを失わず、愚直に丹念に書き続けられたら、あなたは「本物」になれると思う」(枡野浩一氏)と評された。 長距離走とブルーハーツ、ハイロウズ、クロマニヨンズの音楽を愛している。趣味は懸垂。 好きな作家は坂口安吾とシモーヌ・ヴェイユ。 発行所:書肆侃侃房
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櫻井朋子『ねむりたりない』
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櫻井朋子さん『ねむりたりない』 お茶筒がふすりと閉まる瞬間もいつか死ぬって信じきれない 迷いなく友より恋を選ぶだろうあの子は夜空のように笑って あの女も使ったかなぁ出汁巻のうずに差し込む基礎体温計 生死、自意識、葛藤、生々しい感触で、心の内が描かれています。人はいつか死ぬ。お茶筒がピタリと収まるように、設計されたものだけれど、どこか信じきれない自信を見つめている。迷わず友情より恋を選ぶ人を、清々しいようで、どこか闇の中にいるように見てしまう。 雪灯り 母はシンクに熱湯を糸より細く垂らし続ける 十四年目の経血もとめどなく梅雨の港の暗さを思う つま先を閉じてぽちんとエナメルの靴を鳴らせば残業の花 細やかな心理描写もさることながら、繊細で、寂しげな情景も魅力的で、心象に厚みを与え、響き合います。 親指でスマホの通知なにもかも上に流してねむりたりない だといいね 何に相槌したのかを訊き返せずにそれも春宵 枯れるのも咲くのも花の意志ならばわたしの体はだれの福音 強制的に与えられるものもあれば、それを無意識に受け入れてしまう自分も、分かっていながら無視してしまう自分も、その自身を肯定する自分も否定する自分もいる。細やかな心境と日々を、美しい筆跡で描いた歌集です。(よ) --- 新鋭短歌シリーズ57 『ねむりたりない』 櫻井朋子 監修:東 直子 幻の心臓が鳴りやまない 燃えやすくて凍りやすい感情に居場所を与える。 今ここに生きるために。未来を確かめるために。 (東 直子) 【5首】 母さんの自作だったと後に知るお伽話で燃えていた町 くるぶしは小さな果実 夕闇に熟れゆくきみを起こせずにいる あの女も使ったかなぁ出汁巻のうずに差し込む基礎体温計 一歩ずつ脱ぎ捨てていくサンダルのごときクリップ海に焦がれて 枯れるのも咲くのも花の意志ならばわたしの体はだれの福音 【著者プロフィール】 櫻井朋子(さくらい・ともこ) 1992年生まれ。 2017年、新聞歌壇に投稿を始める。 同年、東京歌壇(東京新聞・東直子選歌欄)年間賞。 著者について 1992年生まれ。 2017年、新聞歌壇に投稿を始める。 同年、東京歌壇(東京新聞・東直子選歌欄)年間賞。 発行所:書肆侃侃房
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上篠翔『エモーショナルきりん大全』
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上篠翔さん『エモーショナルきりん大全』。 能あるきりんは首を隠す んなわけねーだろ剥きだして生きていくんだ光の荒野 また会えると抱きしめたときあなたにはすでに霞がみたされていた イヤホンをひとつなくして夜の駅が賛美歌まみれとしってしまった エモーショナル、とある通り、感情的で、簡単に像を結ばせたり、着地はさせない。突飛にも見える飛躍や展開が刺激的です。美しいもの、悲しいもの全てが混沌がとしている世界。 責任を押しつけられてやわらかに自壊していく夏の蚊柱 もう二度とやってこない平成の夏、好きに生きて好きに死のうな 新宿へ着くまで何度死にたいと思っても着く小田急線は 突飛な組み合わせや展開が多いとしても、それらはシュールでもないし、奇をてらう、というよりは、エモーショナルで、必死で、生きようとして、何かを掴もうとしている。現実や、冷静さにたどり着く前に溢れ出してしまう感情、命が生々しく描かれる歌集。(よ) −−−−−− 新鋭短歌シリーズ56 『エモーショナルきりん大全』 上篠 翔 監修:藤原龍一郎 上篠翔の短歌の特徴はスピードである。 そして、スピード感とスピードとはちがう。 スピード感はスタイルであり、スピードは本質だ。 口語のスピードの快感を存分に味わってほしい。 (藤原龍一郎) 【5首】 アリス お茶もういいよ アリス 泣かないで 薇ほどけば夏が終わるよ っこ って何 生きあいっこするわたしたち朝から氷くちうつしてく 能あるきりんは首を隠す んなわけねーだろ?きだして生きていくんだ光の荒野 花みたい、それはやさしい揶揄でしたいいよ花ならお墓に似合う ああみんなねむれずにいてどろみずのあふれる淵の花壇、雨ざらし 発行所:書肆侃侃房
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奥村知世『工場』
¥1,870
奥村知世さん『工場』。「肉体を使い、目の前の具体的なものに対して仕事をしていくことへのあごがれがありました。」と語る奥村さん。 女でも背中に腰に汗をかくごまかしきかぬ作業着の色 鈍色のスクリューパーツをひとつずつブラシでこする子の歯のように 威圧感の低いフォントが選ばれて映されてゆく部長の訓示 スクリューを三人で磨く男たち男同士の話をしつつ 冷静で、客観的な描写の中から、ひたと張り付くように作者の視点やリアリズムが伝わってきます。工場の景色、家庭、生活、読み進むごとに、じわじわと身体に染み込んでくる歌集。 --- 新鋭短歌シリーズ54 監修:藤島秀憲 知性を持った感情が生み出す言葉は強く、やさしい。そっと鷲摑みされた工場と家庭の現場。 「心の花」から今、二人目の石川不二子が生まれた。(藤島秀憲) 【5首】 女でも背中に腰に汗をかくごまかしきかぬ作業着の色 実験室の壁にこぶしの跡があり悔しい時にそっと重ねる 鈍色のスクリューパーツをひとつずつブラシでこする子の歯のように 夕暮れの砂場を掘れば少しずつ獣の手足になる息子たち 教材として触られてカブトムシ脚を一本どこかに落とす 【著者プロフィール】 奥村知世(おくむら・ともよ) 2015年より短歌結社「心の花」に所属。第29回歌壇賞次席。第2回群黎賞受賞。 Twitter @Leo_Tomoyo 発行所:書肆侃侃房
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藤宮若菜『まばたきで消えていく』
¥1,870
現実の向こう側の様な景色を描いた表紙。藤宮若菜さん『まばたきで消えていく』です。 ふくらかな向日葵のくき手折りつつ君が子どもを産む日をおもう 指先のポテチの匂いがなくならないうちに帰ってきてね約束 明け方にあなたの名前叫ぶときだれもわたしを守れなかった 夕暮れの国道沿いのヘルメットの血液型の太いゴシック 近くで語りかけるような柔らかな口調に、生や死の陰と隣接しているような生々しさ、生きることの愛おしさを感じ、胸を打たれます。 -------------- 新鋭短歌シリーズ53 監修:東直子 命の際の歌が胸を突く 残酷すぎるこの世だけれど、人間を知りたいと心から願っている。肝を据えて見つめ直す愛おしい日々。(東直子) 【5首】 寝ころんであなたと話す夢をみた 夏で畳で夕暮れだった これは異性のための表情(待って)(もう行こうよ)(わたしたちでいたいよ) 生まれ変わったら台風になりたいねってそれからは溶ける氷をみてた いつまでも少女でいてとコンタクトレンズを踏みつぶすような祈り 煙草入り缶チューハイが倒れてる ふたりはふつうに暮らしましたでした 【著者プロフィール】 藤宮若菜(ふじみや・わかな) 1995 年生まれ。2012年、福島遥の短歌に出会い本格的に作歌を始める。日本大学藝術学部卒業。 発行所:書肆侃侃房
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伊豆みつ『鍵盤のことば』
¥1,870
伊豆みつさん『銀盤のことば』。 柔らかな装丁、旧かな遣いに、音楽や花のモチーフながら、甘さの中にも痛み。ときおりナードな過激さが交錯します。 花の名を呼ぶかのやうに歌ふから耳がすっかり咲いてしまつた 雨を惜しむなんて傲慢 高評価とチャンネル登録おねがひします 空満つ。 と宣ればそのとほりになつて星ばつかりである踊らうか 幻想的で美しい描写の中に、現代的な生々しい感情が放たれるのも心地よいです。 ーーーーー 新鋭短歌シリーズ52 『鍵盤のことば』 伊豆みつ 監修:黒瀬珂瀾 夜明けが、雨が、そして音楽が――言葉になる瞬間を見に行こう。 〈あなた〉と深く、指をからめて。(黒瀬珂瀾) 【5首】 あなただれ、黄昏。おまへだれ、雪崩。浮世草子をうしろから読む 言葉なるもののからだに棲むかぎり祈りの部屋は保たれてゐる 改札までつないでゐてねオクトーバー・フールと唱へてはだめですよ つけまつげ冷たく濡れて街灯りはまばたきのたび更新される 鍵盤は押せば鳴るもの鍵盤は発語するのに適訳がない 【著者プロフィール】 伊豆みつ(いづ・みつ) 石川県生まれ。上智大学文学部国文学科卒業。2014 年、未来短歌会に入会。黒瀬珂瀾に師事。 発行所:書肆侃侃房
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小坂井大輔『平和園に帰ろうよ』
¥1,870
平和園は、作者の小坂井さんの働く中華料理店。 多くの歌人が集まることで有名なお店です。 持ちあげたグラスの底におしぼりの袋がついてる愛欲は死ね 一発ずつだったビンタが私から二発になって 進む左へ 国士無双十三面待ち華やいで進むべき道いつか間違う 下の歯が二本しかないおっさんの声よく通る名古屋競輪 何だか脱力してしまって、気軽に読める。けれども、実は鋭く観察していたり、すごく理不尽な事があったり…それでもブレずに、柔軟に同じ場所にいる事が分かる。しぶとく、淡々と、それこそお店に立ち続けるように在り続けることは、すごく尊いように感じます。 小坂井さんはメディアにも多く出演。twitterも話題の歌人です。
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笹川諒『水の聖歌隊』
¥1,870
椅子に深く、この世に浅く腰かける 何かこぼれる感じがあって 文字のない手紙のような天窓をずっと見ている午後の図書館 優しさは傷つきやすさでもあると気付いて、ずっと水の聖歌隊 透明で、スローモーションを見ているような静謐さ、美しさを讃えた歌集。どこか幻想的な感じもあり、遠くから、聖歌が聴こえてくる気がします。 −−− 新鋭短歌シリーズ49 『水の聖歌隊』 笹川 諒 監修:内山晶太 第47回現代歌人集会賞受賞!! 現実と幻影の溶けあう場所へ 言葉とこころにはあとさきがない。 混沌が、輝きながら実っている。 ────内山晶太 夢の手触りを信じたくなる 幻想に息吹を与え、こぼれ落ちる寸前に 結晶化する。私はこの歌にあこがれる。 ────文月悠光 【5首】 椅子に深く、この世に浅く腰かける 何かこぼれる感じがあって 手は遠さ 水にも蕊があると言うあなたをひどく静かに呼んだ しんとしたドアをこころに、その中に見知らぬ旗と少年を置く 硝子が森に還れないことさびしくてあなたの敬語の語尾がゆらぐよ でも日々は相場を知らない露天商みたいな横顔をふと見せる 【著者プロフィール】 笹川 諒(ささがわ・りょう) 長崎県諫早市出身、京都府在住。 大阪大学文学部卒業。 2014年より「短歌人」所属。「ぱんたれい」同人。 第19回髙瀬賞受賞。 発行所︰書肆侃侃房
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手塚美楽『ロマンチック・ラブ・イデオロギー』
¥1,870
過激で、感情溢れる装幀の本。今期の新鋭短歌シリーズでは最年少の手塚美楽さんです。 どうしようもないほど無敵桜の木折っても誰にも咎められない 生物と地学の過去問選ぶ手を1億時間は思い出してる 食べることら溺れるみたいコンビニのカレーライスは本物みたい 葛藤と、激情と、切実さと、それでも抱える強さに惹かれます。 --- 新鋭短歌シリーズ51 『ロマンチック・ラブ・イデオロギー』 手塚美楽 監修:東直子 自由も不自由も踏み歩く 誰にも気付かれないように封じ込めた自分自身への供花。 それが手塚にとっての歌なのだろう。 ────東直子 【5首】 家出少女みたいな謎のメンタリティ2人でいると文字化けしそうだ あやかさきまゆみみきみほ道の駅から逃げるスタンプにされないように まだ寝てる?運命の人、聞こえてる? 今桜上水だけどなんかいる? 観光地の変なかたちのラブホテルで燃やしてみたい昔の洋服 永遠にひとつになれないわたしたち ほんとうは甲殻アレルギー! 【著者プロフィール】 手塚美楽(てづか・みら) 2000年生まれ。武蔵野美術大学造形学部芸術文化学科在学中。美学校「現代アートの勝手口」修了予定。 高校生の頃、「ダ・ヴィンチ」の「短歌ください」(穂村弘選)に投稿を始め、大学に進学しフリーペーパー「POV」に短歌を寄稿する。 短歌ZINE「怠惰ふつつか排他的」「Blue Summer Nights」を自主制作、配布中。Twitter @TANEofKAKI 発行所:書肆侃侃房
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久石ソナ『サウンドスケープに飛び乗って』
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札幌で美容室を営む久石ソナさんの第一歌集です! --- 新鋭短歌シリーズ50 『サウンドスケープに飛び乗って』 久石ソナ 監修:山田 航 詩人の舌と、美容師の指と、都市生活者の肌で、 世界は見なれない色へと染まってゆく。(山田航) 【5首】 海の向こう風の休まる土地からの手振れのような写真が届く 吉田さん来てないけれど元気かな無邪気なくせ毛に悩んでないかな 君は表情をぼかしながら私の記憶にとどまってきっと居心地がいいのだろう ビル風で罵れよ秋 取り留めのない話題なら持っているんだ 故郷には届かぬ台風この街を通過しのちに夏を知らせる 【著者プロフィール】 久石ソナ(ひさいし・そな) 1991年 札幌市生まれ 2010年 早稲田短歌会入会 2012年 札幌へ戻り 北海道大学短歌会の創設者のひとりになる 2015年 第一詩集『航海する雪』上梓 2016年 第50回北海道新聞文学賞受賞 2018年 短歌研究新人賞 候補作 2019年 札幌・琴似に美容室「雨とランプ」をオープン 2021年 歌壇賞 次席 同人誌『ネヲ』主宰者、白いひぐま歌会主宰者のひとり 発行所:書肆侃侃房
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中家菜津子『うずく、まる』
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第一回詩歌トライアスロンを受賞されている、中家菜津子さんの歌集。 短歌と詩が収録されています。 【ブログ紹介記事はこちら】 →http://wp.me/p9kdgT-1o --- 新鋭短歌シリーズ23 『うずく、まる』 中家菜津子 監修:加藤治郎 あなたを変えるポエジーの渦 明日の詩歌のためのシンポシオン。 短歌250首、詩13篇を収録。 ー加藤治郎 【自選短歌五首】 ナボコフを声にしてみるうすあおい舌でころがす氷のかけら うずく、まるわたしはあらゆるまるになる月のひかりの信号機前 はるじおん はるじおん はるじおんの字は咲き乱れ、銃声がなる わたしからあふれてしまうわたくしは足の小指をぶつけたりする 夕立にシフォンブラウス透きとおり乳房のためのあたらしい皮膚 【著者プロフィール】 中家 菜津子 1975年東京生まれ。18年間北海道で過ごす。2012年未来短歌会入会、加藤治郎に師事。2013年詩歌トライアスロン最優秀作品「うずく、まる」。2013年第24回歌壇賞候補作「沃野の風」。2014年第25回歌壇賞候補作「霜の花」 (出版社:書肆侃侃房)
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井上法子『永遠でないほうの火』
¥1,870
--- 新鋭短歌シリーズ25 『永遠でないほうの火』 井上法子 監修:東 直子 拝啓 いとおしい日々 みずから迷子になるひとは本当の美しさを知っている。 (三角みづ紀) 言葉が奏でる究極の結晶 そのしずかな光の中で、深い祈りが燃えている。 (東 直子) 【自選短歌五首】 どんなにか疲れただろうたましいを支えつづけてその観覧車 月を洗えば月のにおいにさいなまれ夏のすべての雨うつくしい 煮えたぎる鍋を見すえて だいじょうぶ これは永遠でないほうの火 ふいに雨 そう、運命はつまずいて、翡翠のようにかみさまはひとり ぼくを呼んでごらんよ花の、灯のもとに尊くてもかならず逢いに行くさ 【著者プロフィール】 井上 法子 1990年7月生まれ。福島県いわき市出身。明治大学文学部卒業。立教大学大学院修士課程修了。東京大学大学院博士課程在学中。2009年早稲田短歌会入会。2013年第56回短歌研究新人賞次席
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斉藤真伸『クラウン伍長』
¥1,870
--- 新鋭短歌シリーズ6 『クラウン伍長』 斉藤真伸 監修:加藤治郎 世界を狩る。 ジェイムズ・ティプトリー・Jr. 、チャーリー・ゴードンから 机竜之助まで世界の〈志士〉たちに捧げる頌歌。 ー加藤治郎 【5首】 凍て空の流星群にまぎれつつクラウン伍長の火葬はつづく 郷土史にその名なけれど甲斐のひと説教強盗妻木松吉 家具店の学習机の地球儀に滅んだ国は描かれていない ワインラベル剝がさんとしてこの妻は我の知らざる器具を取り出す 前世のことは知らねど今生はサポーターなる苦行に耐える 【著者プロフィール】 斉藤真伸(さいとう・まさのぶ) 1971年山梨県生まれ。常磐大学人間科学部人間科学部社会学専攻卒業。1995年、当時の職場の同僚であった河野小百合に誘われ、「みぎわ短歌会」に入会。以降、「みぎわ」主宰である上野久雄に師事する。2004年、「みぎわ賞」受賞。2004年から2008年まで「未来短歌会」に所属(加藤治郎選歌欄「彗星集」)。2006年、「未来年間賞」受賞。2001年から「みぎわ」誌編集委員を務める。 出版社:書肆侃侃房
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陣崎草子『春戦争』
¥1,870
--- 新鋭短歌シリーズ7 『春戦争』 陣崎草子 監修:東 直子 ひたむきな模索 結論づけられない渾沌とした内面とそれをとりまく世界。 ー東 直子 【5首】 好きでしょ、蛇口。だって飛びでているとこが三つもあるし、光っているわ すっきりとした立ち姿を見てってよこれがあなたがたの生んだものです 軽く罪にぎって風の中をゆく さほどでもなき人生をゆく つよい願いつよい願いを持っており群にまぎれて喉を光らす 春の日はきみと白い靴下を干す つま先に海が透けてる 【著者プロフィール】 陣崎草子(じんさき・そうこ) 1977年大阪生まれ、東京在住。大阪教育大学芸術専攻美術科卒業。立体造形会社やデザイン会社に勤務後、23歳でイラストレーターとして独立。26歳で絵本作家をめざして上京。2007年、童画家武井武雄について調べていて穂村弘の短歌と出会い、衝撃を受けて作歌をはじめる。2008年よりダ・ヴィンチ誌の穂村弘連載「短歌ください」の絵を担当。同年、歌人集団「かばんの会」入会。2009年、小説『草の上で愛を』で第50回講談社児童文学新人賞佳作を受賞。2013年、絵本『おむかえワニさん』(文溪堂)出版。絵、絵本、小説、短歌を手がけ、作品を発表しつづけている。 出版社:書肆侃侃房
書肆侃侃房「新鋭短歌シリーズ」一挙アップ!