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永井祐『広い世界と2や8や7』

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永井祐さんの第2歌集。あとがきもなく、目次、作品のシンプルな構成です。
表紙にある一筋の、ホログラムが映えます。

目次は、

コーデュロイ
会話
電話をかける
今日のこと

などなど、何か味わいや仕掛けが練りこまれている、というよりは、すごくストレートというか、一見素朴すぎる位の印象を受けます。
そして、作品も一見、あまりに素朴なように見えます。



よれよれにジャケットがなるジャケットでしないことをジャケットでするから

プライベートがなくなるくらい忙しく踏切で鳩サブレを食べた



「一見」とつけたのは、何をいってるんだ。とか、拍子抜けを抜けて、あまりにあっけらかんとしているから。無関心や無感情というには、尋常ではないくらいの手ごたえの無さを感じて、これはおそらく、作為的なものではないか。という感じすらします。

ジャケットでするべきでない行動をとっている事は分かった。何か予想外の事だったんじゃないの?大変だったんじゃないの?ジャケットはよれよれでどう思ったの?とか、普通に、出来事より先立ちそうな事が全然でてこない。

プライベートがないくらい忙しいのに、全く人ごとのようで。踏切で食べてたら、余計殺伐としたとか、少しホッとしたとか、あったはずでは?でも、そういったものはきれいなくらいに取り除かれていて、淡々と、ごくミニマルな出来事だけが、描写されていきます。



ハリボーの袋がゴムで止めてある そのまま椅子で君は寝ちゃった

高校生たちがベンチに二人ずつ 緑の夜の商業施設



もちろん、他人は出てくることもあります。「君」は誰なんだろう。親しい人なのか、仲間なのか。ハリボーと椅子で寝た人、という情報しかない。
高校生が、ベンチに二人ずつ、という情報しかない。
ただ、ここまでシンプルに描写されていると、言葉にした時にどうしても付いてきてしまうような雰囲気や、意味や、本人の主観が付いてこなくて、むしろ描かれた物がクリアに見える感じすらします。
ハリボー、寝ている人、それを淡々と見つめる。それしか、なくて、その出来事や、物自体に感じ入り始めてしまう。

高校生がベンチにいる。楽しそうなのか、むしろ目障りに映ったのか。何も分からないし、歌自身からも気持ちを指示されない事で、読んでる側が光景を思い浮かべて、勝手に愛おしく思い始めてしまうような…何もないようで、こちらの視点をググッとクローズアップさせられて、気持ちを引き出されてしまうような構造すら感じます。



先にはじめてて下さいはきっと冷たい言葉だな 遅刻しよう

冷房つけたいな冷房つけたい贅沢かもな冷房つけたい



たまに、感情や意見が混じる歌もあるけれど、やはり、すごく淡白で。本人の意見はあるのに本人がいないような、不思議な感覚を受けます。

冷たい言葉を受けて、怒ったのか、悲しかったのか、やる気が失せたのか。本人の肝心な所は書かれていない。
冷房つけたい、という事は暑いのだろうし、贅沢、という事は経済的な問題なのか、道徳的な問題なのか、やっぱり、より重要な事へは敢えて踏み込んでいない事に気付かされます。

余計な描写がない事で、ハリボーやベンチのある光景をくっきりと見つめてしまい、感じ入ってしまったように。
冷たい言葉が放たれた。という出来事そのものであったり、冷房をつけたい。という感情、それをどう思う、どうする、とか決めつける前の出来事そのものにクローズアップして、見つめる事でこちらから感情を起こしてしまうような。

何もないようで、何もない故に、引き込まれて、じっ…と見つめてしまうような、これまでに無い体験を出来る歌集のように思いました。

ただ見つめるようで、出来事、もの、人を、真っ直ぐに見つめるという事は優しい。読んでいく中で、ほとんど感情を指示されない事に、寄る辺なさを感じることもあるけれど、目に見える1つ1つ物を認めていくような、柔らかな気持ちも重なってきた気がします。

これは中々得難い読後感。是非是非、体験して戴きたいです。

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