近江瞬『飛び散れ、水たち』


爽やかで、薄いカバーの瑞々しい装幀。近江瞬さんの第一歌集です。
https://gatangoton.base.shop/items/29063887 
何度でも夏は眩しい僕たちのすべてが書き出しの一行目
僕たちは世界を盗み合うように互いの眼鏡をかけて笑った
それはもうほとんどたましい たったふたつの雪見だいふく君と分ければ
開けっ放しのペットボトルを投げ渡し飛び散れたてがみのように水たち
何度も、タイトルの「飛び散れ、水たち」が頭の中でリフレインしてしまう。断片的で、でも確固たる手触りと、一瞬の瑞々しさを鮮やかに描く。
夏、交換した眼鏡、雪見だいふく、飛び散る水。眩しいくらいの輝きは、どれも刹那の中に刻み込まれていて、あらかじめ失ってしまう事を知っているかのよう。だから、一つ一つを大切にしているかのよう。
「ねえ、虹だ」くらいに鮮明なことにしか僕らは指をさせないでいる
言いたくも聞きたくもなき「さようなら」を告げるその君の声になりたい
エンドロール終えて明らむ劇場で僕らは僕らの話をしてた
愛想笑いだったと気付く口角をゆっくり元に戻していれば
喜びも一瞬の中にあれば、悲しい事も一瞬の中にある。喜びに刹那的な陰がある反面、悲しみの中に、怒りや失望ではなく、未来への希望を潜ませているように見えます。
まるで春の罠みたいだな制服のリボン外して微笑む君は
傘閉じる時にいくつか話すべき言葉を失くしてしまう気がする
前後の情景や経緯は分からないけれどとにかく、目の前にあるものを大切に、大切に見つめているようで、全体に深い愛を感じました。
宮城県・石巻出身、在住の近江さん。
後半には、東日本大震災の事が、文章と共に描かれています。
塩害で咲かない土地に無差別な支援が植えて枯らした花々
母親を津波で亡くした男性の支援の女性と結ばれて二年
「話をきいて」と姪を失ったおばあさんに泣きつかれ聞く 記事にはならない
小雨とは言えない雨で県警の一斉捜査中止と決まる
一瞬一瞬の情景から一転、比べてしまえば淡々とした、事実の描写にも見えます。文章もあいまって寧ろ余白に、処理しきれない気持ちがなみなみと貯まってしまっているようにも見える。心が、何かにさらわれてしまったみたいで、どうしていいか分からなくなる。でもやっぱり1つの歌集で、これは報道でもルポタージュでもなくて、同じ1人の歌人が作った歌なのだと分かる。
長歌と短歌を組み合わせるなど、技法としては伝統的なのかもしれないけれど、すごく大きな転換で、驚きます。
飛び散れ、水たち。
飛び散れ、水たち。
読みながら何度もリフレインしてしまいました。目の前にあるものは、思い通りにならないかも知れないけれど、確かに輝いていて、かけがえがなくて、美しい。後悔を残してはいけない。
すごくクローズアップした視点から、大きな問題まで、様々に思いを巡らせてくれる歌集かと思います。


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