

『霊体の蝶』吉田隼人
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グラシン紙のような、半透明のカバーが静謐な印象の装丁。吉田隼人さん待望の第二歌集『霊体の蝶』です。
汐かぜに水沫(みなわ)なしつつ春ゆるるこころの空は花ぞ舞ひける
みなそこに亀ひた眠る なつのひのとどかぬ藍のやみにいだかれ
喪失(うしなひ)をうしなひてのちみをつくし風は吹くらむ海のおもてを
「内面の空虚と肉体の荒廃」とあとがきにありますが、水や風、古典的な香りのする修辞から、美しく奥行きがある景色も広がっています。しかしその中にも、濃い陰りや無常観を纏い、生や死の境に触れるような、幻想的とも瞑想的とも言える視点に、心を奪われます。
人びとのたれもはつかにすきとほりつつねむるらむ みづのこほる音(ね)
れくゐえむ ながれよどみてさよふけてやよひのはるのゆきにほふのみ
生れざりし姉の影かく寒さうに高き架橋にゆるるを見あぐ
肉体を越えた場所から見つめているような超越した感性による抽象性が高い描写。現実から離れた世界観も魅力のように思いました。
みづの道みづの速度をもてあゆむゆくへもしれぬみづの駅まで
生きのびてさびしき花か 雪のころあをき翳りをなほふかくして
身の熱にうかされ思惟(しゆい)はるかなれ雪もみぞれに変じゆく夜半
水、雪、鳥など、象徴的なモチーフが一貫して現れるのも魅力で、その現れ方や意味について、読むごとに感じ入り、深まっていくことも、味わいをより複雑にしています。どこまでも広がるような光景と重みをずっと噛みしめたくなる歌集です。(よ)
https://soshishablog.hatenablog.com/entry/2023/02/20/094007
草思社さんの、ブログの解説も、是非ご覧ください!
------内容紹介-------
「霊魂(プシケエ)と称ばれてあをき鱗粉の蝶ただよへり世界の涯の」
「みなそこにみなもはかげをなげかけてながるる時は永遠の影」
「蓮(はちす)いちりんみちたりて燃ゆ生き死にの条理のよそに浮かむかにみえ」
デビュー歌集『忘却のための試論』から七年、
またも衝撃の第二歌集!
荒涼たるこの世界に生きる苦悩を、
厳しい内省による研ぎ澄まされた文体で歌う。
冷たく燃える詩情は、読者の抱く空虚をほのかに照らす。
[収録歌より]
うちそとのかなしみのごと風すさび身熱(しんねつ)はただ吹かるるばかり
灯もひとつともしておきぬ たましひのあくがれいづる夜(よ)と知りしかば
生きて在る罪をおもへば山桜うすくれなゐに黙(もだ)してばかり
ともしびのゆらぎのこころ安からずこの世のよその風に吹き消(け)ぬ
こころみだるる陽気のさなか希死の蝶うかみつ消えつ花にただよふ
たまのをのもゆらに鳴りてしづまりしこころにぞなほもゆる火のたま
ふかくれなゐの腹みせて藻のまに消ゆるゐもりのいのち致死の毒もつ
目覚めとは断念の謂(いひ) 春の雪ふりつむさなか駒よいななけ
闇に眼はいよいよ冴えて宙空に息詰まるほど花のまぼろし
みづからを赦しえざりし夜の涯のラムプに焼けて蝶か詩稿か
[「あとがき」より]
パンデミック以前はいちおう自分のなかでルールを決めて歌を作っていました。能う限り文語を用いること、「われ」「わが」「吾」といった語を用いないこと、助詞の「が」を主格で用いないこと、内面の空虚と肉体の荒廃とを『試論』より洗練されたかたちで表現すること、など。ルールに反した歌および性に関する表現を含む歌はほぼすべてこの集からは落としました。
中井英夫が『黒衣の短歌史』に採録した「光の函」という吉井勇と釈迢空について触れた文章で、意味の追求から解放され、空虚ななかにただひたすら光を湛えただけの函のような歌を称揚し、また別の箇所でそうした歌の詠み手として浜田到を挙げていたことがこのような集を編む気持ちにさせたようなところがあります。
[目次]
内心の春
のちのこころの
瞑想録(レ・メディタシオン)
全休符
アンチ・ノスタルジア
二十歳(はたち)より先は晩年
穢土に春
青の時代
結晶嗜癖(クリスタロフィリア)
永遠なるものの影
Self-Destruct System
やまぶきのしみづ
建築の寓意
勝ち逃げの自殺
駒よいななけ
うたびとの墓
抹消と帝政
Bibliographie
あとがき
著者について
吉田 隼人(よしだ・はやと)
1989年、福島県生まれ。県立福島高校を経て2012年に早稲田大学文化構想学部表象・メディア論系卒業。早稲田大学大学院文学研究科フランス語フランス文学コースに進み、2014年に修士課程修了、2020年に博士後期課程単位取得退学。高校時代より作歌を始め、2013年に第59回角川短歌賞、2016年に第60回現代歌人協会賞をそれぞれ受賞。著書に歌集『忘却のための試論』(書肆侃侃房、2015年刊)、『死にたいのに死ねないので本を読む』(草思社、2021年刊)。
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